はじめに
野球の試合を楽しむのはもちろんだが、興味深い記事を見つけた。
それが、2024年のプロ野球の観客数が過去最多を更新した、というもの。
元野球部の自分としては、常々野球ニュースをチェックすることが日課だったが、「カープ女子」「ファイターズガール」などがメディアで取り上げられることも多い。
また球場に足を運ぶと女性が多いことにも気づく。性別・年代問わず野球が広まっているのは間違いない。
また、メディアで取り上げられるという点でいうと、やっぱり大谷翔平選手の活躍だろう。
シーズン中彼を見ない日はほとんどなかったのではないか。大谷選手はもちろん、他選手の活躍もあり、MLBの選手も日本でもお馴染みだ。「マイク・トラウト」などがそれだ。
そういった背景もあり、少しずつMLBが日本プロ野球に影響を与えているのは言うまでもない。「K/BB」「OPS」など通な方は耳にしたことがあるのではないか。
本記事では日本プロ野球でも見かけることが増えた野球用語を解説する。
セイバーメトリクス指標とは

近年、MLBはいわゆる「データ野球」が主流だ。
例えば、ある投手と打者が100打席勝負するとする。投手が投げた球のうち、打者が直球、もしくは変化球をどれほど打てたか、または打ち損じたか。投手がどの球種で相手に打たれ、どの球種で抑えたか。それらによって投手と打者のデータを溜める、というもの。
下の動画を見ると、かなり極端な守備シフトを置いている。結果的に打者を抑えたことを考えると、守備シフトが機能していることを指す。
こういったデータ野球が進む中で、「セイバーメトリクス指標」という言葉が広く使われ出した。
では、セイバーメトリクスとは何かというと、一言で言えば「野球×統計学」だ。
各チームはセイバーメトリクス指標をもとに戦略を練ったり、分析したりする。
日本の野球ニュースでも目にした、耳にしたセイバーメトリクス指標用語を紹介する。
セイバーメトリクスとは 投手 WHIP

まずは、投手に使われる指標からご紹介。
「WHIP」とは、Walks plus Hits per Innings Pitchedの略。日本語訳すると、1イニングに投手が許した四球、もしくはヒットによる出塁数。
そして、このWHIPが1.0を下回ると優秀という指標だ。では、2024年シーズンのWHIPはどうだったかというと、以下だ。
- 菅野智之 巨人 WHIP0.94 防御率1.67
- 戸郷翔征 巨人 WHIP0.96 防御率1.95
- 高橋宏斗 中日 WHIP0.98 防御率1.38
- 東克樹 DeNA WHIP1.05 防御率2.16
- 才木造人 阪神 WHIP1.06 防御率1.83
- L・モイネロ ソフトバンク WHIP0.95 防御率1.88
- 竹内夏暉 西武 WHIP0.98 防御率2.17
- 有原航平 ソフトバンク WHIP0.98 防御率2.36
- 伊藤大海 日本ハム WHIP1.07 防御率2.65
- 隅田知一郎 西武 WHIP1.09 防御率2.76
セ・リーグの上位3人は野球好きの方なら効いたことがあるのはもちろん、3人ともMLB移籍が噂される。
菅野投手は2025年シーズンからボルティモア・オリオールズでプレーすることが決まっている。そしてセ・パ問わずいずれの投手も出塁を許すことが少ない分、防御率も低いことも共通点だ。
セイバーメトリクスとは 投手 QS/HQS

次に紹介するのが、「QS/HQS」
QSとHQSとは、Quality Start、High Quality Startの略で以下を意味する。
いわゆる、「クオリティスタート」というやつだ。WHIPに比べ、馴染みがある指標の一つかもしれない。
- QS・・・先発投手が6イニング以上を投げ、なおかつ自責点が3点以内に抑えた登板数
- HQS・・・先発投手が7イニング以上を投げ、なおかつ自責点が2点以内に抑えた登板数
先発投手は5回投げれば勝ち/負けがつく。9イニングのうちの約半分だ。先発投手が9イニングのうち2/3を投げ、3失点以内に抑えればそれが「クオリティスタート」と表現される。
特に試合数の多いMLBにおいて先発投手がクオリティスタートを達成すれば、「先発投手の仕事」をしっかりとこなしたと評価されるのではないだろう。では昨シーズンのQSとHQSの数はというと、以下だ。
QS
- 東克樹 DeNA 22(84.6%)
- 戸郷翔征 巨人 21(80.8%)
- 床田寛樹 広島 21(80.8%)
- 才木造人 阪神 20(80.0%)
- 菅野智之 巨人 18(75.0%)
- 有原航平 ソフトバンク 21(80.8%)
- L・モイネロ ソフトバンク 21(84.0%)
- 今井達也 西武 20(80.0%)
- 隅田知一郎 西武 18(69.2%)
- 早川隆久 楽天 18(72.0%)
HQS
- 戸郷翔征 巨人 16(61.5%)
- 床田寛樹 広島 15(57.7%)
- 才木造人 阪神 13(52.0%)
- 高橋宏斗 中日 13(61.9%)
- 東克樹 DeNA 13(50.0%)
- 今井達也 西武 15(60.0%)
- 有原航平 ソフトバンク 15(57.7%)
- 小島和哉 ロッテ 13(52.2%)
- 隅田知一郎 西武 13(50.0%)
- L・モイネロ 12(48.0%)
WHIPでも取り上げた選手が名を連ねていることがわかる。ただ、中にはWHIPに名前はないものの、QS/HQSに名前がある選手もいる。
例えば今井選手がその一人だ。
QS/HQSに名前があるものの、WHIPに名前がないとはどういうことか?WHIPは許した出塁数を指すと解説した。HQSで1位にランクインしていることから、四球により走者を許すが、ピンチになっても抑えていた、ということがわかるのだ。
事実、HQS1位の今井選手と、2位の有原選手の四死球率はそれぞれ、3,63と1.82だった。どうだろう、データで野球を見ることって面白くはないだろうか?
セイバーメトリクスとは 投手 K/BB

投手におけるセイバーメトリクスの紹介は、一旦これが最後とする、「K/BB」だ
K/BBとは、1つの四死球を与えるうちに、いくつ三振を奪ったかを表す指標だ。
この数字が5を超えると優秀とされる。つまり、1つの四死球を与える間に、5つの三振を奪うということ。ランクインは以下である。
- 菅野智之 巨人 6.94
- F・グリフィン 巨人 5.48
- 玉村昇悟 広島 5.27
- 東克樹 DeNA 5.19
- 小川泰弘 ヤクルト 5.00
- 宮城大弥 オリックス 6.32
- 加藤貴之 日本ハム 6.06
- D・ヘルナンデス ソフトバンク 5.14
- 竹内夏暉 西武 4.86
- 早川隆久 楽天 4.57
このK/BBが日本メディアで取り上げられたのは、昨シーズンからシカゴ・カブスに移籍した今永昇太選手の活躍の影響だろうか。
MLB移籍1年目から15勝3敗の活躍。160kmの豪速球を投げるわけでもなく、スピンの効いた直球の「ポップ成分」が注目された。
そして今永選手のK/BB、「6.21」も注目された。なぜなら、1900年以降規定投球回を投げたルーキー投手の中で、歴代1位に君臨したからだ。
ただ、今永選手の選手以上の活躍をした日本人投手がMLBに過去におり、それがボストン・レッドソックスに在籍していた上原浩治選手。
ワールド・シリーズを制覇した2013年、上原選手のK/BBが異常とされている。上原選手が2013年に記録したK/BBは11.22(三振101、四球9)。1つの四死球を与える間に、11個の三振を奪う、という計算だ。いかにその制球力が優れていたかがわかる。
セイバーメトリクスとは WAR

最後に紹介するのが、「WAR」だ。
WARとは、Wins Above Replacementの略でその選手の貢献度を指す。
この貢献度とは、打つ、投げるはもちろん、守る、走るで計上される。ある選手のパフォーマンスのがチームの勝利にどれだけ貢献したかを指し、MVP選考に直結する指標だ。
ではなぜ、このWARを取り上げたかというと、大谷翔平選手の2024年の活躍だ。
「初」ものづくしだった大谷選手だが、手術の影響もあって打者専念の1年となった。では、2024年の大谷選手のWARはいくつだったかというと、9.2。
DHとしての出場で、史上初めてMVPを受賞。2006年レッドソックスに在籍していたデビット・オルティス選手がDHとして54本塁打・137打点で二冠王になったもののMVP受賞を逃したことがメディアでも取り上げられた。
DHだから、というのが理由らしい。ちなみに当時はこのWARが取り入れられていない。
補足で説明するとWARとは、控えている選手 (Replacement)に比べ、どれだけの勝利をもたらすかを表す指標だ。
裏を返すと、その選手が代わると数字分の勝利を失うということだ。つまり、大谷選手が控えの選手と代わると、9.2勝失うということだ。
再度お伝えしておくと、大谷選手は2024年打者専念の1年だった。守備や投手出場はない。デビット・オルティスとの比較ができないが、そのバッティングがチームに9.2勝をもたらしていたのだ。この9.2という数字を過去の大谷選手自身と比べてみよう。
2021年MVP受賞時 投手9勝 打者46本塁打 WAR9.1
2023年MVP受賞時 投手10勝 打者44本塁打 WAR10.1
2024年MVP受賞時 打者54本塁打 WAR9.2
セイバーメトリクス上、投手出場をしていた2021年をも上回る活躍だったのだ。いかにすごい活躍をしていたか、それを裏付けるデータだ。
最後に
以上が、セイバーメトリクスに関する大まかな説明と、実際に日本でも見かけた実例を紹介した。
観客として楽しむ1ファンとしては、シーズン中セイバーメトリクスに目を向けることはない。ただ、ある選手の活躍がいかに優れているかを示す際にこういったデータがあると納得がいく。
データで見る野球もまた違った楽しみ方がある。
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